夢の中の世界。
まるでプールの中に居るように上手く走れなかったり、月のような重力の軽さだったりと、現実の物理法則のそれとは異なっている事がありますよね。
その中でも滅茶苦茶怖い話だと感じた悪夢の話があります。
地元京都で起きた、その不思議な話を綴ってみます。
1.ユウジの部屋
それは、京都の外れにある高校に通っていた時のことでした。
同じクラスで普段は付き合いがないのですが、今更なんとなく話が合ったりして、学校帰りにそいつの家に寄ってく。
皆さんにもそういった事ってあるでしょうか。
私の高校のクラスに、ユウジって奴がいました。
190cmもある長身で、当時大人気だった織田裕二バリのイケメンだと言われていて、しかしなぜか大人しくて、あまり目立たない奴等とつるんでいる変わった男でした。
私もユウジとほとんど話したことすらなかったのですが、ある日なぜかユウジと二人で漫画の話に夢中になります。
「あの漫画ならオレ持ってるぞ。帰りに家寄っていくか?」
などといった話になり、京田辺のユウジの家に寄っていくことになりました。
ユウジの部屋は几帳面に整頓されていて綺麗でした。
漫画のことはもちろん、クラスの奴のことや、気になる女子のことなど話は色々盛り上がったのですが、突然ユウジが思い出したように
「ああ、ちょっと最近、変な夢を見たんだわ」と言い出しました。
これが実に怖い話でした。
2.うたた寝で見た悪夢
ある日曜、バイトを終えたユウジは夕方頃に家に帰ってきました。
夕陽に照らされた部屋に入り、ベッドに寝転がると、ウトウトしてきます。
それと共に、目を閉じているのに目の前に映像が見え始めました。
「あ、夢を見始めた」と自覚出来たそうです。
疲れている時にウトウトしてきた、いわゆる半寝の状態でしょう。
しかしどんどん眠りに落ちて、いつしかその夢の映像の中に自分は居ました。
この現実から夢に移行する段階において、夢の映像がどんどん鮮明になって、高画質になったそうです。
それこそ汚れやホコリなど、ミリ単位で覚えているほどの鮮明さです。
しかしこれが、場所が悪かったんです。
なんと、どこかのお墓にいるらしい。
夜のお墓なのですが、なぜかお墓や地面などは照明が当たっているように明るく鮮明です。
バラエティのセットのような、嘘くさい墓地、そんな感じです。
ユウジは周囲を見ようと首を動かそうとすると、自分の動きは超スローモーションでした。
首を右に向けるだけでも数秒かかります。
オリンピック選手をスローモーションで映したテレビのCM、そういった感じです。
ユウジは頭を上げて、歩き始めます。
映像の全てがふわふわと遅い。
自分だけでなく、世界自体がスローモーションだったようです。
歩き出すと、高性能な水中カメラを持って海底散歩をする映像のように、ゆっくりとした挙動で映像は動きます。
更にこれが全く音は無く、ただただユウジは高画質な無声映像の中でお墓を歩きます。
ゆっくり、ゆっくりと歩を進めると、視界の右端に何か動くものが入ってきました。
確認するために、首をゆっくりと右へ旋回させていくと、そこには。。
3.迫り来る狂気の男
ニッタァと不気味に笑った顔の男が立っていました。
ユウジが知らない男だったそうです。
距離は数メートル先ですが、やはり顔面のシワ1本までもが鮮明に見えるのです。
これは絶体ヤバイと思ったユウジは、男から離れようと、身体の向きを変えようとしました。
やはり、ゆっくり、ゆっくりと映像が旋回するのですが、なんと、その男だけはスローモーションなどではなく、普通の速度で歩いて来るんです。
ユウジは焦りますが、やはりスローモーションでしか動けません。
男はどんどん歩み寄ってくるのですが、なんとだんだんスピードアップしてきました。
とうとう男はユウジの目の前に来ました。
目の前に来たかと思うと突然、なんと男は動画の早回しのようなスピードで体をグネグネと動かし始めました。
ユウジは成すすべ無く呆然としていると、不気味な顔をユウジの眼前に接近させてピタっと急停止しました。
ビデオの早送り、動画の早回しから一時停止ボタンを押したようにストップしています。
それも、先ほどまでのニヤけ顔ではなく、なんと真顔なのです。
あまりのカオスな状況に固まるユウジが、息を飲んだその次の瞬間・・
いきなり男の目が飛び出して、それを見た所でユウジは「うわ!」と、目が覚めたそうです。
4.悪夢の後の更なる恐怖
「珍しい夢やな、ていうかめっちゃ怖い悪夢やん…」
私がそうと言うと、ユウジは
「違うねん、怖い話はここからやねん」
そう言いながらユウジはハンサムな顔の眉間にシワを寄せながら、私の背後を指差しました。
「ええ!?」
私はユウジの話が怖かったので、ビクッとして後ろを向きました。
そこには、ユウジの部屋のドアがあるだけです。
ユウジは話を続けます。
その悪夢から覚めて起き上がりますが、かなり呼吸が乱れていました。
大きく深呼吸をして、ベッドから降りようとした次の瞬間でした。
突然、凄い勢いで階段を昇る音がしたそうです。
一体何が階段を昇ってくるのか。。?
しかしここはもう夢ではなく、現実です。
ユウジは寝起きの脳をフル回転させます。
今、自分が居る場所は自宅の二階にある自分の部屋だ。
今日はお母さんと自分しか家に居ません。
当然、お母さんが昇ってきているはずなのです。
しかしユウジには、それがお母さんであるという確証が持てなかった。
勢いよく近付いてくるその音に、腰を抜かしたようにベッドから落ちて
部屋の端へ転げて座り込み、固まった。
階段を昇る足音は異常に速く、ドタドタドタドタ、ピタッと、部屋のドアの前で止まりました。
ユウジは固まったまま動けず、荒くなる呼吸を押さえて耳を澄まします。
今、確実にドアの前に誰かいる。
何の冗談なのか、ドアの前で全く物音を出さない。
数秒の事だったらしいが、緊張状態です。
階段を上がってきたのは誰なのか、聞くどころか怖すぎて声が出せない。
次の瞬間、沈黙は破られました。
「ユウジ~!夜ご飯よ~!」
。。ユウジは、これがそのオチだと言う。
「なんや、お母さんが呼びに来たんか、幽霊じゃなくて良かったな」
「いや、そうじゃなくて。。」
なんとお母さんの呼び声は、一階からだったそうです。