夜の海、奇妙な漁り火。
UFOやUMAなど、都市伝説への興味が深かった昭和の時代に、京都のある教師が夜の海辺で奇妙な漁火を見かけます。
今回は、かつて小浜の海辺で起きたその奇妙な話を書き綴ってみます。
1.小浜へ夜釣りに
地元京都の小学校、低学年の頃でした。
担任の先生が無類のアウトドア好きで、時々授業を中断してその体験話を聞かせてくれた。
先生は黒板にチョークで背景や図解などを書きながら話してくれたので実に楽しく、みんな先生の話が大好きでした。
なかでも怪談は大人気で、その中にとても怖い話がありました。
ある休日の前夜、先生は友人と二人で海へ夜釣りに出掛けました。
当時険しかった峠を車で越えて、小浜の海へと抜けて行きます。
地理的に考えて、おそらくは「鯖街道」だと思われます。
峠を抜けた先にある小浜の海沿いには、静かな漁師町が並び、特に鯖が美味しい事で有名です。
釣りのスポットとしても優れているので、先生は遠路峠を越えてでも度々訪れていました。
その日、先生達はいつもの場所に到着して、早速釣具を準備します。
2.不可思議な漁り火(いさりび)
京都小浜の夜の海。
既に深夜に差し掛かっており、月も出ていない真っ暗な夜でした。
幸い雨は降っておらず、先生は持ってきていたランタンに火を灯しました。
二人は釣竿を降って、釣糸を海へと垂らします。
深夜は冷えるので、ステンレスポットに入れてきた温かいコーヒーをすすりながら、二人は雑談を楽しんでいました。
しばらくすると、海上に漁り火が見えます。
ポツ、ポツ、と2つの漁り火が灯っております。
夜の海なので距離はわかりませんが、2つの漁り火は仲良く並走しているように見えます。
先生はなんとなくしか見ていなかったのですが、じっと観察していた友人が異変に気付きました。
「なあ、あの漁り火って位置がおかしくないか?」
そう言われてよく見ると、ちょっと位置が高すぎる。
海面に対しての位置がわかりにくいのですが、漁り火であるはずのその光は、不可解な事にどう見ても空にあるのです。
暫く動きを見ていると、もう明らかに水平線よりも高い場所でうごめいているのです。
3.UFO見物の奇妙なカップル
先生達は、これはもしかしてUFOではないか、などと盛り上がっていると、突然後ろから人が歩いて来ました。
歩いて来たのは男女のカップルでした。
カップルは先生達を追い越す形で、波止場の先端へ行きました。
正確には、先生と友人は海上の謎の光に夢中になっていて、カップルが通りすぎるまで気付かなかった為、気付いて見た時には既に後ろ姿でした。
おそらくはこのカップルも謎の光に気が付き、見に来たのだと思われます。
そしてこの時点で、4人が同じ場所でこの謎の光を目撃している状態になるわけです。
そうなるとこれはUFOだという可能性も盛り上がり、友人はカバンからカメラを取り出します。
そして、カップルの背中と一緒に、パシャパシャとシャッターを切りました。
夜なのですが、空中の発光体を撮影するためですので、フラッシュは焚かずに撮影しました。
奇妙な事に、しばらくすると2つの謎の光は夜空にスッと消えていきました。
4.深夜の海辺から消えたカップルとUFO
見えなくなったな、などと話していると、放置していた釣竿がグイグイ引いていたので、先生達は慌ててリールを引きました。
無事魚が釣れたようですが、もはや二人はそれどころではありません。
「この写真は絶対にスクープ写真になる」「現像するのが楽しみだ」などと盛り上がっていました。
話も少し落ち着いて、友人がふと波止場へ目をやります。
「あれ?さっきのカップルは?」
先生達が盛り上がっている間に、いつの間にか帰っていたようです。
結局先生達はカップルの後ろ姿しか見ていなくて、顔を見ることもありませんでした。
しかし奇妙なカップルでした。
この深夜に、小浜の海辺へ現れてから去るまで、会話の1つもしていなかったそうです。
謎の光を見に来たのならば、わいわい喋っているものではないかと、先生達は少し不思議に思いましたが、UFOで盛り上がる先生達にとって、この事が後に怪談になるとは想像もしておりませんでした。
5.UFOスクープ写真が心霊写真へ変わる時
そして数日後。
待ちに待っていた日が来ました。
現像に出していた写真が出来上がる日に、友人と喫茶店で待ち合わせをしていたのです。
もしUFOが撮れていたなら、テレビに出る騒ぎになるかもしれない。
しかし、喫茶店で待っていた友人は、いつになく険しい顔をしていました。
先生が「どうした?」と聞きます。
友人は「とりあえず、見てみろ」とテーブルに写真を置きました。
先生はその10数枚ほどの写真を、さっとテーブルに広げてみると、全体的にオレンジの光が目立つ。
どの写真にも、オレンジの光があちこちに写りこんでいます。
これではどれがUFOだかもわからない状態です。
「お前が撮影ミスって珍しいな」
先生がそう言うと、友人は険しい小さな声で呟きました。
「そうじゃない、よく見ろ」
友人がそう言うので、先生は写真を手に取ってよく見てみました。
そして、何枚目かを手に取った時、先生はある事に気がつきます。
そして、思わず「うわあ!」と言って写真を投げ捨てました。
もはやUFOどころではない、恐るべき心霊写真がそこにはありました。
6.強烈な心霊写真の供養
先生が投げ捨てた写真。
そこに背中が写りこんでいたはずのカップルが、二人ともこちらを見ていたそうです。
二人は、まるで精気の無い青い真顔でこちらを凝視しています。
撮影していた友人はもちろん、横にいた先生も、カップルの顔を見ていないので、気にしながら撮影していました。
こちらを見ていたのならば、気付かないわけがありません。
友人は更に続けます。
「俺、フラッシュ焚いてないんだよな」
追い討ちとなる友人のその言葉で、先生は青ざめました。
深夜の海でフラッシュも焚かずに撮った写真は、人の顔が映るものでしょうか。
このように、どう考えても二人の記憶と写真の内容が違うわけです。
それも、カップルの写真に対する尺寸や身体の状態もおかしかったそうです。
暗闇の写真をよく見ると、カップルは2人とも身体は海を向いているのにも関わらず、顔面はまっすぐこちらを向いた状態だったそうです。
もはやUFOの写真どころではなく、強烈な心霊写真です。
あまりに不吉なこの写真を、後日先生達はお寺へ持って行きました。
写真を見た住職は、開口一番に「あー・・これは・・」と言われたそうです。
これがどういった霊なのかは、さすがに住職にもわかりません。
しかし住職でも目を見開いて驚いていたというので、一目でわかるような明らかな心霊写真だったと言うことでしょう。
こんなあからさまな心霊写真を所有してしまった先生達は、処分の仕方もわからないので、住職に頼んで供養してもらったそうです。
古来より、水辺というのは霊が集まりやすいと言われており、必然的に怪談の噂も多いです。
そのカップルの正体はもはや知り得ませんが、小浜の海辺で不幸に合ったカップルが、UFOに驚いて見に来たのでしょうか。
それとも、謎の光自体がこのカップルの魂だったのでしょうか。