【実話怪談】手を振る人々~京阪電車・伏見稲荷(1970年代)

京阪伏見稲荷駅



京阪電車・伏見稲荷駅。

通勤電車の車窓からは、毎日見慣れた景色が流れます。
そんな景色が、ある日見慣れない物になっていた事はありませんか?
今回は、ある学生が体験した奇妙な景色の話を綴ってみます。

 

1.京阪電車で通学した日々

これは私の中学のM先生が、学生の頃に体験した怪談です。

学生当時の先生は、京阪電車で京都市内の大学に通っておりました。
講義が終わると市内でバイトして、帰りの電車は夜になります。

そんな毎日を送っていたある日の事でした。

当時の年末は、クリスマス商戦などと言った物はまだ無かった時代ですが、店はとても忙しかったそうです。
ようやくバイトを終えて外に出ると、今にも雪が降りそうなほどに冷えていました。

電車に乗るといつも混雑しているはずが、なぜかこの日は空いていたのでシートに座れました。

京阪電車の車内



京阪電車、京都市内でこの時間にガラ空き・・よくよく考えるとそれは結構おかしな事なのですが、深く考える気力も無く、先生はラッキー程度に思いました。

2.恐怖の始まり、電車の居眠り

暖かいシートが疲れた体を癒します。
発車ベルが鳴り、プシューという音と共にドアが締まりました。

その安堵から、間もなくして先生は「これは寝てしまいそうだ」と思いました。

しかしここで眠ってしまうと乗り過ごしてしまいます。
明日は午前の講義があり、落とすわけにはいかないのです。
幸い車内は空いていたので、背伸びをしながら大きく深呼吸をしました。

そう、ここで居眠りするわけにはいかないので、先生は堪えました。

しかし駅に着いた時のブレーキの反動で、体がガクンとシートに倒れて目が覚めました。
そうです、寝てしまっていたのです。

3.手を振る人々

しまった」と呟いて、慌ててキョロキョロと駅の看板を確認します。
そこには「伏見稲荷駅」と書いていました。
先生の家は淀駅なので、まだまだ○駅も先です。

ホッとして、安堵の溜め息を漏らしながら背もたれにバタンともたれました。

電車が発車すると「次は深草、深草」というアナウンスが流れました。

電車が出発してからふと窓の外を見ると、何人もの人達が一斉に手を振っています。


大きな送別会があったのか、または誰か有名な人でも乗っているのだろうか。

そんな事を考えていると、またウトウトしてきました。

4.電車の中の夢中夢

しばらくして、またしてもブレーキの反動で目が覚めました。
今度はガッツリと寝てしまった感覚がある。

しまった、今度こそやっちまった」と思いながら外をキョロキョロと確認しました。

看板を見ると「伏見稲荷駅」と書かれていました。

そんなばかな・・・

なんとまた伏見稲荷駅に到着しているのです。
電車が戻るわけがありません。

奇妙な電車内



ではさっき見たのは、夢の中で見た夢、いわゆる「夢中夢」だったという事になるのでしょうか。

しかし先生は前の駅でも確かに起きていたのです。
背伸びをした感覚や車内アナウンスもハッキリと覚えているのです。

先生はこんなバカげた体験をしている自分は、よほど疲れていると考えます。
そしてまた背伸びをして、車内アナウンスを聞きました。

次は深草、深草

窓の外を見ると、またしても大勢の人が手を振っているのです。
これは正夢?
もしくは「夢中夢」で見た事が正夢になった、ということなのか?

確かに今日は、色々とおかしい。
でもそれを考える気力もなく、先生は意識を失っていきます。

このような不思議な事が起きているというのに、自力では睡魔が押さえられないのです。

5.ループする夢中夢

そしてまたしても、ブレーキの反動で目が覚めました。
慌ててキョロキョロと外を見ると案の定、、看板には「伏見稲荷駅」と書かれていました。

前回と同じく、駅が進まず、また伏見稲荷に到着しているです。

これで3度目です。
今回の場合はいよいよ先生もこの「夢中夢」が、ただ事ではないと感じました。

そして、もうひとつおかしな事に気が付きました。
ここまで来て、この車両には先生しか乗っておりません。

三条駅で乗った時には「ガラ空きだった」わけですが、誰も乗っていなかったわけではありません。
いま気が付くと、この電車には先生しか乗っていないのです。

この電車は田舎の電車ではなく、乗車率の高い京阪電車です。
夜間の京都市内からの帰りが空席なわけがありません。

しかしこの違和感と不思議な現象の中、先生は身体が疲れ果てていました。
全部夢、不思議な夢だ」と解釈して、また暖かい電車のシートでウトウトします。

次は深草、深草

車内アナウンスが聞こえる中、自分しか乗っていない車両に向けて手を振る人達がまた見える。
3度目というのは絶対におかしい。
同じ出来事を繰り返している時点でありえない。

しかしその眠気には抗えず、先生はそのまま意識を失っていきました。

6.伏見稲荷大社の怪異


チリリリリリリリリリリリリリリリリリン!

目覚まし時計のベルが、けたたましく鳴り響く。
目が覚めたら、先生は自分の部屋にいました。

慌てて目覚まし時計を止めて起き上がる。
先生は大きく溜め息をつきながら、酷くリアルだった夢を思い返しました。

そして、しばらく切っていないボサボサの髪をかき上げながら、台所へ。
コップに水を注ぎ、ゴクゴクと飲んでいる途中に、とんでもない事に気が付きました。

どうしても思い出せないのです。
なんと先生には、伏見稲荷駅から帰宅した記憶がありませんでした。

あの手を振る大勢の人達を思い出すと、背中がぞぞぞっとしました。

伏見稲荷か。
先生は何かあるのかもしれないと考えました。

その日はバイトが入っていなかったので、帰りに伏見稲荷大社へ御参りしたそうです。

それがお稲荷様のいたずらだったのか、もしくは何らかの警告を知らせてくれたのかはわかりません。
しかし何らかの用事で、先生は大社へ呼ばれたのではないでしょうか。

この霊験あらたかな伏見稲荷大社では、こういった不思議なお話が数多く語られております。