八幡の紙芝居のおっちゃん。
かつては駄菓子を売りに、それは自転車でやって来ました。
しかし当時、おかしな紙芝居を見たという少年がおりました。
今回は、京都の八幡で起きたその実話怪談を綴ってみます。
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1.来なくなった八幡の紙芝居
あれは小学校低学年の頃、地元八幡での事でした。
夕方になると近所の公園から小さな太鼓をコンコン叩く音が響きます。
夕陽を背中にそこへ立つのは「紙芝居のおっちゃん」でした。
この頃既に、紙芝居屋さんという職業自体が、もう日本で数名しかいなかったそうです。
しかしそれも私が高学年になる頃には、いつの間にか来なくなりました。
かなりのご年配だったので、引退されたという噂になりました。
京都の八幡市にあるこの地域は、私も含み、他府県から来たいわゆる「よそもの」の人口のほうが多かったので、紙芝居屋さんと接点のある人は周囲に居なかった事から、実際どうなったのかはわかりませんでした。
もちろん、あのような怪談になるとは誰も想像していません。
2.紙芝居の小太鼓
当時、私の登校班にいるヨウヘイ君という大人しい男の子がいました。
彼は私の1つ年下、5年生です。
そんな地元での、ある日曜日の昼下がりのことでした。
ヨウヘイの家には誰もおらず、独りでテレビを見ていました。
すると、外から懐かしい小太鼓の音がしてきました。
そう、紙芝居のおっちゃんの小太鼓の音です。
ヨウヘイは条件反射のように、お小遣いの小銭をポケットへ入れて外へ飛び出しました。
紙芝居の小太鼓が聞こえると、必ず周囲の子供達も飛び出して騒がしくなります。
ところが外には誰もおらず、辺りはシーンとしています。
日曜日の昼下がりは、みんな家族で買い物や外食などに出掛けていて、誰もいないという状態はよくあります。
ヨウヘイは公園まで出てみると子供の声も無く、やはりシーンとしておりました。
公園は夕方前の少し赤くなった日差しの中で、スズメの声だけが時々響きます。
3.様子がおかしい紙芝居のおっちゃん
公園の隅に目をやると、そこには紙芝居のおっちゃんが石段に腰掛けていました。
もう来なくなったと思っていたのに、これはラッキーです。
ヨウヘイは喜んでおっちゃんの方へ駆け寄ります。
ヨウヘイがおっちゃんの前まで行くと、おっちゃんは黙って立ち上がります。
そして自転車に取り付けた紙芝居を黙々と準備し始めました。
なんと、客はヨウヘイ一人なのに、紙芝居を始めようとしているのです。
ヨウヘイは奇妙だなとは思いましたが、それよりも紙芝居が見れる事のほうが嬉しい。
「さあさ楽しい紙芝居、始まるよ~」
久しぶりに聞くおっちゃんの声に、わくわく感が高まります。
久しぶりに聞く、おっちゃんの愉快な声と楽しい絵。
ヨウヘイは笑ったり驚いたりしながら夢中に見ていました。
ところがヨウヘイは紙芝居を見ているうちに、なぜか眠ってしまったらしいのです。
4.静寂を切る爆音
ドオンという激しい地鳴りのような音に目が覚めました。
いつの間にかおっちゃんも帰ったようで、ヨウヘイはなぜか公園のベンチで寝ていたようです。
空は夕焼け前だったので、それほど時間は経っていません。
しかし、さっきまで静かだった公園は、周囲からたくさんの人の声が響いています。
何事かと見渡すと、なんと公園から見える自分の家から煙が上がっています。
慌てて家の方へ戻ると、近所の人達がみんな出てきて騒ぎになっていました。
やはり黒い煙が上がっているのはヨウヘイの家の窓からです。
間も無くして消防車のサイレンが響き渡り、火の手はヨウヘイの家だけで留まりました。
私も記憶が曖昧なのですが、ガス爆発だったようです。
古くなったカセットコンロが、なんらかの原因で引火して爆発したと記憶しております。
そして紙芝居を見るために外へ飛び出していたヨウヘイは無事だったわけです。
近所にも引火していないので、幸い怪我人は出ませんでした。
しかしこのお話の不可解な部分は、ヨウヘイはこの紙芝居がどんな話だったのかを全く覚えていないのです。
そしてこの後日、近所の全ての人が、この不思議な話の全てを共有することになります。
「紙芝居のおっちゃん、去年亡くなったらしい」
ヨウヘイは亡くなられた方と一定の時間を過ごしております。
すなわちそれは怪談ということになりますが、これは怖い話ではないと思います。
紙芝居のおっちゃんはヨウヘイの危機を悟り、外へ出させたのではないでしょうか。
かなり小さな範囲で立ち消えした都市伝説は、世界に多数存在します。
しかし、あの時確かにヨウヘイの命を守ったおっちゃんは、今もずっと八幡の子供達を見守っているのかもしれません。