京都のタクシーの怪談と言えば深泥池。
誰しも1度は聞いたことがある古典的なタクシー怪談。
その元となったと言われている、深泥池の都市伝説です。
これは有名な心霊スポットにもなった怪談ですが、有名な怪談という物には必ずその理由が存在します。
今回のお話は、現在のメディアなどで報道された都市伝説とはかなり異なる、当時のニュースにまでなった「もう1つの」京都のタクシー怪談を綴ってみます。
1.報道された幽霊騒ぎ
小学生の頃、夕方のニュースを見ていると、こんな感じのタイトルが出てきました。
「京都府警が日本初、幽霊を事件扱いに!?」
これは当時、京都でかなり話題になった有名な話だったので、覚えておられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのニュースの内容は、こうでした。
タクシーの運転手が、次々と深夜の交番にやってきては
「乗せた客が消えた」
という報告が相次ぎました。
警察も当初は虚言や何かの間違いだと考えていたのですが、奇妙な事に、通報してきた内容が、みんなほぼ同じ話だったのです。
つまりは、こうです。
「乗せたはずの客が居なくなってシートが濡れていた」
なんと一行で説明できてしまう、例の有名な怪談ですね。
実際にそれを体験した運転手さんにとっては非常に怖い話ではありますが、昨今ではステレオ化された怪談の雛形になってしまいました。
しかしながら、国民の安全を守る使命を持った国家公務員が、そのような与太話をいちいち真に受けるわけにもいきません。
普通に考えると「口裏を合わせたイタズラではないか」となるでしょう。
しかしざっと調べてみた所、通報のあったタクシー会社もバラバラで、プロが集団でそんな子供みたいなイタズラをするとも考えにくい。
そこで実際に、事件として調書を取り、実質、日本で初めて幽霊の捜査を行ったというのが事の顛末だそうです。
テレビで放送されていた内容は、だいたいこんな感じでした。
当然と言えば当然ですが、結果がどうなったのかまでは放送されなかったようです。
恐らくは、どういった事が起きたかという事実関係が形式上だけ捜査され、犯人は浮かび上がらず、捜査終了といったところでしょうか。
「京都のタクシーは、深泥池には行ってくれない」
などといった都市伝説が最近でも語られております。
ja.wikipedia.org
これはこのお話を踏まえて考えると、数十年前には、そういった運転手さんが本当に居たのかもしれません。
さて、周知既存の事実関係の整理はここまでです。
2.京都のタクシーの会合で出た怪談
ここから私が、その「真説」とまで付けた、現地の「事実である可能性が高いお話」を綴っていきます。
私は仕事の関係や、地元の友人関係から、京都のタクシードライバーの友人が何人かおります。
時々プライベートの会合に誘われる、といった関係ですが、京都のタクシーの裏話はかなり面白いのです。
有名人を乗せた話、スポーツ選手に絡まれた話、芸人さんに説教された話などなどネタは尽きず、興味津々です。
しかしお約束の怖い話になると、いい歳をしたおじさん達が、なぜかたちまち真剣に話を始めるのです。
これは長く乗っている運転手はほとんど「1度は見ている」ので、それぞれがチャカさず真剣に聞き入る空気になります。
私はこの怪談が楽しみで、この会合へ参加していると言っても過言ではありません。
「京都のタクシードライバーの会話」ですから、これはまさに都市伝説の震源地ともなり得る集まりでもあるわけです。
ある夏の会合で、件の「深泥池」の話になりました。
まず、友人のヒロやんが切り出しました。
「深泥池のあれ、乗せたことある?」
そう言うと、ベテランのキドさんが
「あるぞ、だいぶ昔の話やけどな」とのこと。
なんとあの有名な怪談の、体験者本人が語った生々しいお話が聞けたのです。
3.現地京都のベテランタクシードライバーによる驚愕の証言
当時のその日、キドさんは夜勤でした。
世の接待などが動く、忙しい時間帯も落ち着いた深夜。
夜の祇園も店は閉まり、閑散としてきたので、あとは京都市内の北側、上京区の方を流そうと思いました。
他のタクシーはほとんど遠方に飛んでいるわけで、市内のタクシーは数も少ない。
北へ向かう最中、急に雨が降ってきました。
プロドライバーとしては、雨に困る人を探しながら流します。
すると、左手の歩道で手を挙げる女性を見つけました。
キドさんは車を寄せてドアを開きます。
「お客さん、いやな雨やねぇ。どちらまで行きましょ?
すると女性がぼそっと言ったのが「深泥池までお願いします」でした。
いつもはお客さんによく話し掛けるキドさんですが
どうもそんな空気ではなく、サッと送ろうと思いました。
深泥池が近くなった辺りで信号が赤になります。
ワイパーと雨の音だけが聞こえる静かな車内で
「お客さん、どの辺りで停めますか?」
と聞きながら、横目でルームミラーを確認すると・・
なんと後部座席には誰もいないのです。
シートで見えないのかな?と思って後ろを向こうとした直前です。
「次の信号を左にお願いします」
女性は半身を乗り出した感じでキドさんの耳元で言ったのです。
キドさんは固まったまま、眼球だけを動かしてルームミラーを見ますが、なんと、ルームミラーには誰も映っていません。
「会ってしまったか・・」キドさんはそう思った、と言います。
ベテランのキドさんにとっては、長年同僚達から色んな怖い話を聞いているわけです。
いつ自分にそれが当たるかも知れず、それがこの「物怖じしない対応」に繋がったのだと思われます。
例えそれが怪談であったとしても、です。
4.幽霊とプロの仕事
この時点で相当に怖かったのですが、キドさんは落ち着いて、声が上ずらないよう返事をしました。
「はい、次の信号を左折ですね」
そう、この時点でキドさんは車内にいるのは「この世の者ではない」と確信しておりました。
恐ろしくて生きた心地はしない、しかしキドさんはこう思いました。
このお嬢さんは、タクシーを頼って乗ってきたから、届けてやろうと。
「・・そこで停めて下さい」
「はい、おおきに」
民家の前辺りで、タクシーを左に寄せて停車させた。
キドさんにはもう分かっていた。
後ろには、誰も居ないか、あるいは人間ではない者がいるか。
車内灯を付けて一か八か、ガバッと振り返ります。
「料金は、千・・・」
そう言いかけたところで、結果は前者だと出ました。
後部座席には誰も乗っておらず、車内灯に照らされたシートは濡れておりました。
キドさんは、後部ドアをガチャっと開けて、誰も居ない後部座席へ向かって
「お嬢さん、忘れ物無いようにな」
と呟いてドアを閉めました。
5.タクシーを呼び止める者
そして今日はもう会社に帰ろうと思い、前に向き直すと、思わず「うおっ」と声が漏れました。
この状況で車の前方に人がいたので、驚いたのです。
実際、当時の京都の人は夜も早く、深夜の住宅地で外に出ているというのは稀な話です。
しかしヘッドライトに照らされた姿をよく見ると、年輩の男女、おそらく夫婦だろうか。
奥さんらしき女性がキドさんに寄ってきたので、窓をあけました。
「あの、こんな深夜にタクシーが入って来たので知り合いが来たのかと思いまして・・」
不自然な事を言ってくる女性ですが、キドさんはピンと来た物があり、事の顛末を年輩夫婦に話してみました。
「何かいわくがあるはずだ」と考えたキドさんの勘は当たりました。
夫婦がこんな深夜に外に出てきたのは、娘さんの通夜だった、とのことでした。
「娘を連れて帰ってくれて、ありがとうございます」
と、タクシー料金を支払ってくれたそうです。
時の流れで記憶は誇張されたりする物です。
しかしキドさんが、このお嬢さんのご両親から料金を受け取ったのは本当の話だそうです。
この時点でも既に「実話怪談」ということになります。
恐怖の都市伝説として、メディアやネット上でも様々な見解が語られている深泥池の話ですが、私はこのキドさんの話を聞いてから少し違う解釈をしております。
お嬢さんは、キドさんによって「タクシーに乗った」という現象を現世に認識されたことで、1度形が付いたその現象を他のタクシーにも繰り返していた。
つまり、ちょっといたずら好きなお嬢さんだったのではないか、などと想像しています。
正確には実際どうであったのかは知りえませんが、キドさんの対応、親御さんの気持ち、お嬢さんの霊・・怖い話というよりも、実に人間臭い暖かさを感じましたが、皆さんはいかがでしたか。
※都市伝説とされたこの心霊スポットに関する注意事項
現在、この都市伝説はあまりにも1人歩きしすぎて、地元の近隣の方々が非常に迷惑をされております。
深夜に訪れて騒いだり、心霊スポット探索などとむやみに聞き込みを行うと言った行為は絶対に止めておきましょう。