【実話怪談】無響室の恐怖~京都市左京区(1990年代)

京都の無響室で起きた怪談

無響室の恐怖。

人は誰しも、何度か「幻聴」という物を体験しているのではないでしょうか。
一定の環境下で起こり得るこの現象ですが、これが気のせいでは済まない場合もあるようです。
今回は、京都のある場所で起きたその恐ろしい怪談を綴ってみます。

 

 

1.防音室設置業者のバイト

20歳前後の頃でした。
当時仲の良かったタカシは、京都でなかなか給料の良いバイトを見つけました。

建物の中に、防音室を設置する業者です。
例えばそれは、音楽教室などのスタジオといった本格的な防音室から、民家のピアノ部屋の遮音工事まで様々です。

京都にある無響室の階段

タカシがそのバイトへ行きはじめて数ヶ月したある日のことでした。
なにやら浮かない顔をして、私の家へ遊びに来ました。

ちょっと凄いことがあってな、バイト辞めたわ

この時に聞いた話は、当時の私には実に生々しい現実的な怪談でした。

2.音の無い世界、無響室

ある日タカシは、新しい現場へ連れて行かれました。
その建造物に、「無響室」を設置する工事でした。
無響室とは、音の反響を限りなくゼロに近付けた部屋です。

ja.wikipedia.org

これは壁が音を99%以上も吸収するという、非常に高度な技術で、価格も相当な物らしい。
それ故に、特殊な用途に使われる部屋だそうです。

その部屋の工事はほぼ完了しており、仕上げに掛かるとのこと。

タカシは社員さんに、「気を付けろ。気分が悪くなったら、すぐ部屋を出ろ」と言われました。
初めは社員さんが何を言っているのか、いまいちわからなかった。
しかし、実際にその「無響室」に入ってみて、社員さんが言った意味がすぐに分かった。

まず、キーンという耳鳴りが聞こえるのは想像出来ると思います。
しかし本当に音が無い世界というのは、耳鳴りだけでは済みません。

 

京都の無響室で起きた怪談


耳を澄ますと、自分の身体の音が大きく聞こえてきます。
心拍の音はもちろん、関節の音や内臓の音までもが聞こえるのです。

そして、頭に浮かべた音声が、まるで耳から聞こえているかのような錯覚を起こします。
これがいわゆる「幻聴」なのですが、中にはその幻聴によって無響室でパニック状態になる人までいるそうです。

3.無響室で聞こえる幻聴

そんな無響室の中に入ったタカシは、社員さんの作業のアシストをしていました。
タカシの脳内では、無意識に音楽が再生されると、それがどこかから聞こえているように錯覚しました。

暫く作業をしていると、突然タカシの耳に妙な声が聞こえてきました。


やめて助けて


女性の声でした。
タカシはビクッとして、小声で「うわ!」と漏らしました。

すぐに社員さんは、「あ、聞こえたか。ちょっと外で休憩してこい」と言いました。
熟練の社員さんからすれば、いつもの事なのでそう言ったわけです。

しかし、タカシは更に幻聴に襲われます。

やめて助けて。やめて助けて。

この声が、等間隔でずっと聞こえるのです。
タカシはたまらず小走りでドアへ向かいます。

すいません、休憩してきます

これが幻聴か、怖いなと思いながらタカシは外へ出ました。
部屋から出ると幻聴は収まりました。

耳が感覚を戻すにつれ、さっきのそれは自分の想像が生んだ音声なんだと認識できました。
タカシは「なるほど、こうして耳が馴れていくわけだな」と感覚を理解しました。

4.無響室に響く、区別の付かない幻聴

気分が落ち着いたタカシは、無響室へ戻ります。
よう!と社員さんは笑っていて、タカシも照れ笑いしながら作業に戻ります。

今度は脳内の音と実際の音が、少し区別できるようになっていました。
もう少々変な音声が聞こえても怖くありません。
個人差はあるようですが、タカシは初めてにしては結構長い時間作業できたそうです。

そしてその日の作業もそろそろ終わりかけた頃でした。

やめて助けてやめて助けてやめて助けてやめて助けて

先程の女性の声が、いきなり連続で反響しはじめました。
タカシは作業の手を止めて、神経を耳に集中しました。

これは幻聴だ、実際は聞こえていない

そう言い聞かせるタカシの意思とは関係なく、女性の声は激しさを増してきました。

やめて助けてやめて助けてやめて助けてやめて助けてやめて助けてやめて助けてやめて助けてやめて助けてやめて助けてやめて助けてやめて助けて

うわうわうわ!

さすがにタカシは無響室のドアへ駆け寄ります。
社員さんは笑いながら何かを言っているのですが、なんと社員さんの声が聞こえません。
ありえないことに、耳が女性の声に占有された状態なのです。

本格的にヤバイと思ったタカシは、ドアを開けて外に飛び出ました。
すると女性の声の反響はピタリと止まり、ホっと息を吐こうとしたその時でした。

なんで部屋から出るの?

ハッキリと耳元で声が聞こえたのです。

京都の無響室で起きた怪談

タカシはひっくり返りながら、ぶわっと後ろを振り返りました。
しかしそのドアの奥には、作業をする社員さんが笑ってタカシを見ているだけでした。

5.無響室で気が触れた人

この話は確かに、得体の知れない怪談とも取れるでしょう。
しかし私は、タカシがこのバイトを辞めたというのが理解出来ませんでした。

なぜなら、もう工事は終わっているわけです。
それに、無響室の工事などという特殊な物が毎回あるわけでもありません。

それでもタカシが辞めた理由は、こうでした。

その社員さん、会社に帰ってから救急車で運ばれて入院した

というのです。
入院先は、精神科だったそうです。

無響室を初めて体験するタカシを、笑って見ていた熟練の社員さん。
一体彼に何が起きていたのでしょうか。
タカシが最後に聞いた「幻聴」と何か関係があったのでしょうか。

それとも・・・