学校の怪談、トイレの花子さん。
花子さんは怖い話のみならず、アニメの主人公になったりと、都市伝説の中でも非常に人気のある幽霊です。
今回は八幡市の小学校で噂になった学校の怪談、花子さんではないトイレの幽霊「4時ババ」の話を綴ってみます。
1.下校時刻の幽霊の噂
「下校時刻の4時になりました。校舎に残っている児童は、そろそろ下校しましょう」
私の小学校では下校時間になると、放送委員の子によって、このようなアナウンスが流れます。
その後に、なんとレコードの音楽が流れます。
曲はラストワルツとアニーローリーがあり、担当の放送委員が決めて流します。
そしてこの学校には、花子さんではなく「4時ババ」という幽霊の噂がありました。
「4時に北校舎三階の女子トイレへ入り、下校の音楽が終わったら、白い服の女の人が出現する」
「ババ」とは、特に「おばあさん」を差していたのではありません。
男子は大人の女性の事を「ババア」などと言っていた口の悪い時代でしたので、そのまま4時ババと名前が付いておりました。
いかにも作られたような怖い話というか、花子さんのアレンジバージョンのようにも思えます。
しかもこれ「音楽がアニーローリーだった場合に出現する」という特定フラグまで付与されておりました。
また北校舎三階は当時、教室は使われておらず、全て倉庫代わりに利用されていました。
この無人階の不気味さが怪談の噂を生み出していたのかもしれません。
以上からしましても、どこの小学校にもある微笑ましい話ですが、、どうも私には、ずっと腑に落ちない話がありました。
2.学校の怪談ブームと霊感少女
小学三年生のある日の事でした。
夏だったこともあり、クラスが怪談ブームになっていました。
そうなると、やはり学校で噂の幽霊の話が持ち上がります。
そう、花子さんならぬ4時ババです。
悪ガキだった私達のグループは「4時ババ見に行こうぜ」という話になりました。
もはや怖い話という感覚だったのかもわからないノリでした。
放課後になると、確か8人ほどが残りました。
もちろん、例の霊感少女カナちゃんも一緒です。
下校時刻まではまだまだ時間があったので、みんなは鬼ごっこやらボールなどで遊びながら、4時になるのを待ちました。
3.北校舎3階の恐怖
そして4時前になり、いよいよみんなで北校舎三階のトイレへ向かいます。
4時ババが出るのは女子トイレという話です。
しかし北校舎三階のトイレは使われておらず、仲間に女子もいたので抵抗なく入れたのを覚えています。
みんながトイレへ入ってすぐに、校内放送が響きました。
「下校時刻の4時になりました。校舎に残っている児童は、そろそろ下校しましょう」
わいわい騒いでいたみんなは、息を潜めて放送に集中します。
みんな帰った校舎には、放送がよく響き、非日常感が増してきます。
さあ、あとは最後のフラグである「音楽はどちらか」です。
「うわ、アニーローリーや…!」
これがまた都合のいいように、「4時ババが出る方の曲」でした。
みんなのボルテージは恐怖と共に一気に上がります。
「やった、出るぞ!」
「やばいって、マジで出るって!」
「どうする!?どうする!?」
そうこうしている間に、アニーローリーの曲は終わります。
みんなが息を飲んで、シーンとしていたその時でした。
「きゃあああ!」
沈黙を破ったのは、カナちゃんの悲鳴でした。
これには全員が驚いて、慌ててトイレから出ます。
そして我先にと必死で階段を駆け降りていきました。
駆け降りながら、悲鳴をあげたカナちゃんに皆が質問します。
「カナちゃんどうしたん!?」
「奥になんか居た!」
「なにが居たん!?」
「なんか白い服の!睨んでた!」
1階まで降りて、廊下から下駄箱へ出ます。
すると、目の前に立ち塞がる人影があります。
うわあ!とみんなびっくりして急ブレーキで止まりました。
「コラ!廊下を走るな!」
校舎を見回りに来た先生でした。
4.白い服の幽霊
皆は先生へ口々に「4時ババが出た!」と訴えながら、先生の手を引いて下駄箱へでます。
「わかったわかった、三階のあのトイレやな?」
そして中庭から三階のトイレを見ると、すりガラスの窓が見えます。
「なんか、窓に誰かもたれてない?」
確かにすりガラスには、何か白い服の人がもたれているように見えていました。
ところが次の瞬間、窓にあるその白い服の人が消えました。
「うわあ!」
皆が同時に叫んだので、皆がその瞬間を見ていたということです。
「お前らはもう帰りなさい、門が閉まるぞ!」
そう言って北校舎へ駆け足で行った先生の行動から、窓にもたれていた白い服の人が消えた事実が確定されました。
これはもう小学生にはかなりの恐怖ですが、先生がいるので、怖さよりも好奇心が勝ちます。
「先生追いかけに行こうぜ!」
と、なるわけですが、見てしまったカナちゃんが必死で止めます。
「あかんて!イヤや!イヤや!」
そう言って手を引っ張って止めるので、先生が戻ってくるのを待つことにしました。
しばらくすると先生が降りてきます。
「おいおい、お前らまだ帰ってなかったんか!」
結局、戻ってきた先生にさっさと門から出されました。
この先生によると、「誰もいなかったし、光の加減やな」とのことでした。
しかしこの話は、この霊感少女のカナちゃんが幽霊を見たということで、学校の怪談「4時ババ」として更にハクを付けました。
5.あの時トイレでカナちゃんが見た物
それから年月は流れ、中学3年生になったある日。
放課後、たまたま廊下でカナちゃんと鉢合わせました。
お互いに一対一だったので、なんとなく会話になります。
お互い用事が無かったので、帰りに小学校の先生に会って行くことになりました。
当時のメンバー全員とまではいきませんでしたが、二人で歩くと誤解を招くので、何人かを呼んでいきました。
来賓用の入口から入り、スリッパを履いて職員室へ向かいます。
職員室には、あの当時の先生が座っていました。
「先生、久しぶりです~!」
「おお!お前ら、遊びに来たんか!」
先生は嬉しそうに迎えてくれました。
私とカナちゃんは目で合図をし合い、早速当時の話を聞いてみることにしました。
「先生、北校舎三階の件、覚えてるやんな?」
すると、先生は確かに言ったのです。
「あれビビったよなあ!トイレに白い服の女性が入って消えたやつな。先生もマジでやばかったわ!」
みんなシーンとして、キョロキョロと顔を見合わせました。
そうです、話が違うのです。
「先生、トイレには何もいなかったって言ってたよね?」
「先生、よく思い出して」
すると先生は「あ、、!」と漏らします。
「いやすまん、記憶違いや、お前らは見てなかったな。あの時な、実は先生、見たんやわ」
先生の話はこうでした。
先生は一人で北校舎三階に上がった。
すると、誰もいないはずの校舎なのに、白い服の女性がトイレに入って行った。
トイレの中を確認したが、誰もいなかったそうです。
先生は当時、自分自身は怖い体験をしていたのですが、私達を怖がらせないように「怪談ではない」として嘘をついていたわけです。
カナちゃんは怖がると言うよりも「あっちゃー、またかぁ」みたいな顔をしていました。
彼女はこういう霊体験には慣れておりましたので「やっぱりか」くらいの物だったのでしょう。
そしてこの帰り道で、冒頭で書きました「私がどうしても腑に落ちない」という話を、カナちゃんに聞きました。
「幽霊を見慣れてるカナちゃんが、なんであんなに怖がったん?」
カナちゃんは、こう答えました。
「4時ババって、一人じゃなかったんよ」